彼女たちの後夜祭
         〜789女子高生シリーズ

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。
 
 



とある閑静な住宅地の、
小高い丘の上にその瀟洒な佇まいを見せておいでの某女学園。
幼稚舎から大学部までという、
一貫教育を謳ったミッション系名門校の、ここは高等部だけであり。
そもそもの始まりでもあるせいか、
歴史も古ければ、その名も社交界へ広く知られており。
持ち上がりの生徒らは主に名家の令嬢により占められているものの、
近年、卒業後に様々な現場で伸びやかな個性を発揮する先達も多いため、
それらを慕い目指してのことか、
外部からの秀逸な中途入学希望者も少なくはない。

 ところで、
 秀逸とか優秀というのにも色々あるようで


  「…っ。」

文化の日を挟んでの、数日間という長いめの学園祭は無事に終わった。
模擬店に寸劇の公演に、動画の上映会に、
管弦楽の演奏や斉唱。
外国語の弁論精読もあれば、
よくあるお化け屋敷や迷路を構えるクラスもあり、
校庭では武道部連合による青空屋台と
茶道部の野点がなかなかのミスマッチで雌雄を争い、
某バザーでは三華様たちの手作りクッキーが飛ぶように売れ。
最後の仕上げは、ガールズバンドの軽快なステージで幕を下ろした
それは盛況で誰もが楽しんだだろう、
そして終わるのをついつい惜しんだだろう、
そこも恒例な、味わい深い学園祭だったのだけれども。

 後片付けはまた明日。
 戸締まりはしっかりね、火の元は確認しましたかと。

生徒らだけじゃあない、
シスターも、警備担当のおじさんたちもきっちりと確認してのこと。
陽もとうに落ちた暗がりの中、誰の姿もないはずの、だがだが、
ちょっぴり微熱の居残ってそうな女学園の瀟洒な校舎のその陰を、
素早く駆け抜けた何物かがあり。
それを見とがめてだろう、

 「そっち、行ったよ。」

一見、クリップタイプのオーディオプレイヤー風。
だが実は、細いマイクを頬に添わせた、
平八特製の小型軽量インカムフォンへ、
七郎次が鋭い囁きを吹き込めば、

 【 ん…。】

吐息と区別がつかないほどの、短くも小さな相槌があったので。
よし任せたとの切り替えをしたのち、
そのしなやかな腕をぶんっと、頭上から背後へ振り切ったのは、
手首に仕込んだバンドから、愛用の得物を振り出し、
且つ、その伸縮を引き伸ばす遠心力を生むためで。
しゃこんと軽やかな音を立て、
伸びた全長は、彼女自身のすらりとした身長と同じほど。
しなやかな特殊金属の得物、
程よい太さと重量バランスを設計したのも、勿論のこと作ったのも、
ひなげしさんこと平八の手になるものなだけに、
七郎次の腕の延長も同じこと。
そんな頼もしさもあっての余裕が、
朗々とした声を放つ活力の源ともなっていて。

 「つまらぬ料簡での侵入なら、とっととお帰りなさいませ。」

一見、ウェットスーツのような、
総身へぴったりと添う、動きやすいいでたちの彼女は、
もしかしてレオタードでもまとっておいでかと、
その麗しさと度胸とで、対峙した相手をややたじろがせたものの。
ザッと軸足を前に腰を落として身構えた態度から、
敵意満々なことを伝え、それで我に返らせてしまったか。

 「…チッ。」

忌々しいと言いたげな舌打ちと共に、
どうせ女の子だと甘く見てだろう、
素手のまま飛び掛かって来た無謀さが命取り。

 キュインッ、と

鋭い風鳴りがし、
それがそのまま頭の上から降って来るのへ
気づいたときにはもう遅い。
目の前の少女が構えた得物を槍と見なし、
ぶんっと鋭く眼前で振り切られた切っ先を
素早く掻いくぐった動態視力は大したもので。
その間合いの分だけ、戻すのに間がかかり、
ゆえにそこへ飛び込めばこっちのものと思い込んだらしいが、

 「甘い。」

確かに延び切った腕ではあったが、
その先でぐるんと半分だけ回された得物の、
手前の部分が彼女の肘に添わされての直線コースで、
容赦なく男の肩へと振り下ろされる。
そうと辿ったそれはなめらかな軌跡を、目の当たりにしたが、
加速のついた自身の動作は止められず、
ひいと悲鳴もどきを上げ、
ドカッと食い込んだ一撃へ、前のめりに倒れ伏した暴漢で。

 「こっちは倒したよん。ヘイさん、久蔵殿は?」

インカムへ話しかければ、

 「向こうへは征樹と良親が向かっておるわ。」
 「ひい…っ。」

聞き覚えのあり過ぎる素敵なお声へ、
ほんのついさっき、
足元へ伸びてる男が上げたのと
似たような悲鳴を上げて、
その場で躍り上がっている白百合さんだったりし。

 だってだって勘兵衛さま、
 この人たち、
 学園祭が終わって完全に無人になる
 ウチの女学園に忍び込んで勝手にサバゲーとかやってんですよ?
 戦利品だとか言って、
 わたしたちの私物とか備品とか持ってくし。
 ネットでそんな不埒な呼びかけしてるのを
 ヘイさんが気がついて。
 それであたしたちが成敗をとですね、と。

淀みなくすらすらと言い出せれば世話はなく。
えっとあのあの、あのですね//////と、
先程の勇ましさはどこへやら、
雄々しきスーツ姿も精悍な、
好いたらしい警部補の、やや渋いお顔を前にして
もじもじ含羞む草野さんチの七郎次お嬢様であり。




  そんな彼女から離れること、校舎二つを挟んだ向背では


そちらへ逃げたとの報を受け、
こちらさんも似たような、痩躯へ吸いつくボディスーツ風のいで立ちのまま、
小さめの白い手へぶんと振り出したのが、特殊警棒の二刀流。
軽やかにけぶる金髪が夜風になぶられ、
凍ったような白いお顔を神秘的に見せており。

 「な…何だよ、お前。」

無人の構内だから、さほど照明もないままな中、
それでも色白な彼女の姿は、月光の明るみだけで十分に際立っており。
こそりと忍び込んだ輩は結構下調べもしていたか、
運動部の部室長屋へと続く小道、迷いなく進んで来たらしかったものの。
そこへと立ち塞がっておいでの不思議なお嬢さんには、
さすがに疚しさからか、ぎくりとその身を凍らせる。
しかもしかも、

 「……。」

声をかけたのに反応は皆無。
切れ長の目許にかぶさる、軽やかなくせっ毛の金髪といい、
絞り込まれた痩躯と斬りつけるような鋭い表情といい、
その手へ掴んでおいでのいかにもな武装といい、

 “ばいおはざーどの アリスみてぇ…。”

それでなくとも日常的とは言えない舞台。
常習の窃盗犯とは思えぬ、十代か二十代そこそこくらいの男であり、
此処へ来た経緯を考慮しても、ゲーム感覚で忍び込んだに違いない。
そんなところに唐突に現れた華奢な少女の、
ひくりとも動かない表情の冷たさが、
整っているからこそ、余計に作り物のように見えただろうし。
堂々としている場慣れした様子から、
ゲームの登場キャラのようなという錯覚へ、

 “感覚が歪んでしまいかねないというにっ、”

躊躇していたのもしばしのこと、
そのまま辟易するか、いっそ我に返って、
やっべ目撃されたよと、この場から逃げ出しゃあいいものを。
コトはそうそう、こちらの都合に合わせちゃあくれないか。
いかにも素人らしき腕の振り上げようで駆け出した、
今夜限りの即席泥棒少年であり。

 「こんのっ!」

そのくらいで“キャア怖いっ”と怯んでくれたら苦労はしない。
向こうが戦闘態勢行為に出た以上、
こっちこそ防衛行為を取ったまでと言い切れるとの判断が起動したようで。
ぐんと身をかがめてのバネをため、
あっと言う間にその姿が消えるという、
場合でなければ惚れ惚れしただろう見事な俊敏な動作を見。
何もこんな素人へ繰り出すなよなと、
微妙に泣きそうになったのが
遅ればせながら現場へ到着した征樹さんこと佐伯刑事なら、

 「…っとぉ。」

それは的確な仕置きゆえ、
寸分違わず、相手の肩か背中へ振り下ろされるだろうと見越した
特殊警棒の切っ先、
ほとんど隙間なんてないほどの接触状態の、だが、
ねじ込むことで作って隙間へ割り込んだ、こちらは棍棒で、
天から振り落ちて来たご本人ごと、がっしと受け止めたのが、

 「…結婚屋。」

こと、丹羽良親さんだったりし。(こらこらズボラな)

 「はぁい、ヒサコ様。」

絶妙なバランスで、振り下ろした得物の接点へ重さすべてを預けておいでだが、

 「こんな夜更けに何してますか。」

なんの、こんな細っこいお嬢さんくらい、
棒の先にて支えられなくてどうしましょうかと。
そちらもこんな時間帯にうろつくには十分不自然な、
イタリア産だろスーツ姿のイケメンのお兄さんが、
不敵に笑ったのへ。

 「………(ちっ)。」

久蔵お嬢様が細い眉をしかめれば。

 あ、こら、今 舌打ちしたね、そういう不良みたいな真似はやめないと、兵庫さんに言いつけるよ。それでなくとも私までが怪しい人物扱いされてんのにサ。綾麿様は綾麿様で、そういう状況なの面白がってるし、と。

氷のような美貌も麗しき、白皙の美少女、
しかも自分が仕える令嬢へ、
いやに つけつけとした物言いをする元相棒へ、

 「………良親?」

柄じゃあないだろそれと、呆気に取られた征樹だったのも刹那の呆然。
ハッとすると、振り向きざまに、身をぐんと下げての片足だけをぶん回せば。

 「…っ。うおっ!」

背後から近寄っていた不審者が、
逆に足を蹴たぐられて、その場へどうと倒れ込む。
手には物騒な鉄パイプを両手がかりで振り上げていて、

 「サバゲーっつっても、
  構内は無人だって触れ込みじゃなかったのかい?
  実は敵も配置されてるとか言われてた?」

久蔵の得物を受け止めた棍棒、そのままどんっと、
素人侵入者くんのみぞおちへと、
一応は加減して良親が食い込ませれば、

 「かはっ!」

痛さよりも不意打ちだったことへ驚いたか、
わあと尻餅をついた少年が、
月光を背に負った大小のシルエットを見上げて、あわわと震え上がる。

 「し、知るかよ。
  俺はただ、お宝集めりゃ買い取ってやるって伝言板見て。」

 「そうか、じゃあ不法侵入と窃盗未遂だな。」

何故だか良親が手錠を取り出し、
容赦なく彼の手へとかしゃりと掛けてしまい、

 「お〜い、征樹。連行しておけ。」
 「偉っらそうにっ。」

そちらはいつの間にか、
華奢なヒサコお嬢様を肩の上へと担ぎ上げておいでの良親が、
じゃあ俺は帰るからと、
揃えた人差し指と中指でのチーッスという敬礼もどきのポーズをして見せて。

 “よくも捕まえたよな。”

当然、じたばたもがくお嬢様だが、どういうコツがあるものか、
特に困ってもない様子で、駐車場のほうへと向かう彼であり。
こちらは二人になってしまった不審者、しかも一人は人事不省を見下ろして、

 「…あ、勘兵衛様ですか。
  こちらも無事割って入れました。
  三木さんは良親が、送ってくそうです。」

応援寄越してくださいと、付け足したのと同時というタイミングで、
ざかざかという凛々しき足音だの、
楯構えーだのという号令があちこちから聞こえ、

 「ありゃまあ、機動部隊の演習で片づける気だな、勘兵衛様。」

苦笑した征樹殿の傍ら、
何が何だかと一般人に戻った不審者Aが、
びくびくと周囲の正体不明な喧噪に怯えていたそうな。







     〜Fine〜  13.11.06.


  *あ・しまった。ヘイさん出してないや。
   れいるがんのMAD見ながら書くとこうなります。
   あまりにメジャーすぎて、つい見なかったんですが、
   恋愛がからまないって前提の、女の子が活躍する話は大好きなんで、
   何で見なかったと後悔しきりです。


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